小説
『五感』





小松はいつも色々な臭いであふれている。

今日の臭いは…ニンニクが一番強い。
あとはいつもの食材と…さっき作ってくれた夕飯の匂い。

「トリコさん?…ボク何か匂いますか?」

ソファで小松に寄りかかって匂いを嗅ぎ続けていたら、いいかげん呆れたように声が降ってきた。
小松は自分の二の腕に鼻を近づけて確認している。

「いつものことですから慣れましたけどね」

はぁ、と小さなため息。
そのため息も嗅いでみる。

「この匂いは、今日のメインの縞ワニですよ。燻製にしたので臭いがキツイでしょう?」
「わかってる、生まれて1年ちょいの雌の縞ワニだろ」

オレが探しているのはそんなものじゃない。
髪の中に鼻を入れたら、小松の肩が揺れた。

「くすぐったいですよ、トリコさん」
「シャンプー変えたな」
「ココさんがくれたんですよ。無香料のなんですけど、よくわかりましたね」

『無香料』なんてオレにはありえねぇよ。
てかココのやつ、オレのいないところで何してくれてんだ。
だが小松のまわりにココの臭いはしない。シャンプーは郵送で贈ったか。
あからさまにホッとする自分がいた。

「わかんねぇ…」

臭いでわかるかなって思ったんだけどな。

「トリコさんでもわからない匂いがあるんですね」
「獣なら結構解るんだがな」
「ボクは獣じゃありませんよ」
「人間だって獣だろ」
「…」

今、小松はきっと「トリコさんなら獣っぽいですよね」って思ったな。

「で、何が解らないんですか?」
「発情期」

小松の匂いが強くなる。体温が上がった証拠だ。

「に、人間に発情期なんてないですよッ!」
「わかってるよ。臭いから察するにちゃんと昨日もオナ」「わーーーーーッ!!」

自分の家で他に誰も居ないのに口を塞いでどうするんだ、小松。
でもからかい過ぎたかもしれない。小松はスネてしまった。
ソファから離れた訳じゃないが、顔はそっぽを向いてしまった。

「…トリコさん」

そっぽ向いてた顔がこっちを向く。
両手がこっちに伸びてきて、頬に手が添えられる。

「トリコさんは嗅覚に頼りすぎです」

頬を軽く魔つままれ、小松には笑顔が戻った。

「そういうコトが知りたかったら、嗅覚じゃなくて視覚ですよ」

そう言ってまっすぐ目を見られたら、その視覚もクラリと揺れる。
絡んだ視線は物言わぬ誘い――。

オレは近付く小松の顔を見ながら(そういえば、ココは視覚が良いんだったよな…)と余計なことを考えていた。



end




デキてるのかデキてないのかわかりにくい話ですみません。
書いてる本人も迷いながら書いてました。(デキてるだろうけど)
オチの絵ヅラが2作とも似てますね…orz