小説

『銀の剣』
 
 
ココとの待ち合わせ場所は、珍しく占いの店の前だった。
『CLOSED』の看板の前で小松が出会ったのは、ココではなく宅配便の業者だった。
「ココ…さんですか?」
「あ、いえ」
恋人です、とはさすがに言えず困っていると、扉がが開いてココが出てきた。
受取表にサインする姿を見て、小松は待ち合わせ場所が店だった理由を知った。
「宅配便を受け取るためだったんですね」
それでも、いつもは店ではあまり会うことのない小松は疑問をぬぐえない。
個人的な荷物の受け取りなら、小松をここに呼ぶ理由はない。
(もしかして、この荷物はボクに関係するものなのかな?)
プレゼントかも…と、つい品名の部分を目で追う。
 
“銀のスプーン”
 
嫌な予感がした。
小松は料理人だが、食の世界に関わる以上、銀のカトラリーが高級品以外の意味合いを持つことを知らないわけではない。特に相手はココなのだ。
「もしかして、ボク用ですか」
ココは照れたように笑いながら小松を見たが、真剣な眼差しを受け、一転覚悟を決めた。
「…万が一がない、とはいえないから」
銀のカトラリーはかつて毒物検知のために存在したと言われている。
「お守りに、と思ったんだ」
ココに他意はないのだろう。
現在では銀食器は高級品や贈答品の意味合いが殆どだ。
「小松くんと家で食事をすることが増えてきて…嬉しいんだけど、どうしても不安もあって」
お守りとは、小松のためだけでなく、ココにとっても必要だったのだ。
「気に障ったのなら…」
すぐに殊勝な面持ちで頭を垂れるココが、小松の目には可愛らしく映った。
一緒の食事を嬉しいと言われたからだろうか。
「ココさんと、お揃いにしてくれるのなら、いいですよ」
小松はココの腕を寄せて、頬を寄せた。
愛された故での行動を咎めるよりも、素直に受け止めたほうが幸せだ。
「ごめんね、小松くん」
「もういいですってば」
それよりも、ブランド名を教えてください、追加注文しましょう、と荷物の封を開けた小松が固まった。
 
「ココさん…これ…キャットフードですけど…」
「えっ?!あれ…?」
 
次の待ち合わせも店でだね、と二人は笑いあった。
 
 
END☆
 
参照ユニチャーム「銀のスプーン」
 
 
もっとドロドロするつもりが、なぜかあっさり風味に…。
いや、そーいうのが好きなんですけどね☆