『闇の中の幽霊』



(7)


唇を首筋に回すと小松の身体が思った以上に反応した。
今更ながら、戸惑いを感じた。
また闇の中に戻らせてしまうのではないか。
怖い物など無かった筈なのに、今は小松の心や体を、僅かでも手放すのが怖かった。
二人の間にある数枚の布地すら邪魔で、それでも乱暴なことは出来ずゆっくりと取り払う。
「少しでも嫌だと思ったら言え」
狭いベッドに小さな身体を横たえると、小松は目を閉じて小さく頷いた。
「…目は開けといてくれ」
「トリコ…さん」
「お前に、オレを見て欲しいんだ。…お前を好きな、オレを。」
そう言うと、再び首筋に舌を這わせた。
視線は外れてしまうが、そういう問題ではない。
オレを意識して欲しかった。
お前を、抱いているのは、オレだ
昨夜の言葉が脳裏を横切る。
だが繰り返しはしない。
壊れ物を扱うように、舌は鎖骨を掠めながら、そのまま胸の果実にたどり着く。
「ひ…ぅ…ンっ!」
見なくても、口を手で覆っているのがわかる。
「辛いか?」
小松はそのまま首を横に振った。

声を出させようかとも思ったが、そこは小松に任せることにした。
昨日の今日、性行為をしているのを知られたくない、と思うのは仕方の無いことだ。
(最初なんだし、な)
けれどいずれは…、と未来をイメージすると、ふと心が軽くなった。
この腕の中にいる愛しい存在と歩む未来に、闇は無い。
もうオレたちは歩み始めたのだ。

じわりと反応する自身に背中を押され、再び果実を貪る。
「…ッ…んっ」
軽く歯を立てれば、顎が上がり、身体が跳ねた。
溢れた唾液を尖りと共に吸い上げる。
「ぁああ…!」
ずり上がる身体をベッドに押し付けて、同じところを責め続けた。
「…!…っ、…ン」
今度はもう片方を同じように愛撫する。
「ゃ…だめ…」
否定的な言葉が聞こえたが、拒絶ではない。
証拠に、オレの胸の辺りにある小松のものが主張を始めていた。
誘われるように唇を寄せると、迷わず口内に納めた。
「――!!ダ、…ェ…!」
急に髪を掴まれた。
髪を掴まれているのに声がくぐもったので、視線を上げると、小松は左手で枕を顔に当てて声を抑えていた。
オレを見ろって言ったのにな…。
だが、髪を掴まれているのは、存外に気分のいいものだった。
それに小松にとっても声を殺しやすいのなら、このままの方がむしろいいのかもしれない。

十分固くなったところで、唇を離す。
「…っ、はぁ…っ、…?」
口淫でイかさせると思っていたのか、戸惑う小松から枕を取り、抱え直して腿の上に乗せる。
「な…に…」
「挿れるのは、また今度な」
頬に軽くキスをして、男根を揃えて同時に扱く。
「ひゃ…ぁっ!」
サイズの違いはこの際ご愛嬌だ。
体躯の差を考えれば、恥ずかしいことなんかない。
どちらのとも取れない先走りの液が潤滑油となり、淫猥な音を立てはじめる。
「ぁっ、…め、…だめぇ…」
力の抜けた上半身を片手で支え、同じように力なく半開きになったままの唇に舌を寄せると、小松も舌を伸ばしてきた。
淫靡な水音が部屋に響く。
暫くの間、聴覚で犯された後、先に小松が果てた。
惚ける顔をオカズに、オレも小松の腹に白濁を浴びせかけた。






続く